ページの本文へ

Hitachi

BistroMate飲食業向けASPサービス

清水均のフードビジネス短信

第10回 商売と職人気質

日本における飲食店の中で、「鰻」の専門店ほど存続の長い商売はない。吉田茂元首相や白洲次郎・正子夫妻が出前で取り寄せ、立原正秋や獅子文六の小説にも出てくる大磯にある「國よし」は、現店主が18代目。旅籠(はたご)時代から数え、200年以上の伝統がある。東京・麻布の狸穴(まみあな)にある「野田岩」本店は、現在5代目で、鰻一筋160年の歴史を誇る。

『串打ち三年、裂き八年、焼きは一生』と言われる鰻だが、これらの店では、京都の老舗料亭のように一子相伝であり、連綿としてその職人技とタレを今に継承している。経営として見れば、「商売としての旨み」があるからこそ、伝承され、継続されるのだ。

長野県上諏訪にも、歴史こそないが、鰻の著名店が数店ある。その中で、K店とF店という対照的な店がある。K店は、大串の鰻重で最高額が2,625円、鰻丼が1,365円。F店は、同2,600円(特を除く)と1,600円。価格に対し鰻の大きさだけを比較すればどちらも遜色ない。地元の評価もほぼ互角と思われる。大きく異なるのはその経営姿勢である。

K店は、14人掛けの大テーブルがデンと店内に控えており、テーブル席や個室もあるが、回転重視なのだ。2人客は当然のように大テーブルに案内される。繁忙期のピーク時間帯には、予約客でさえ入り口で待たされ、店内の状況で案内する席が変わる。蒲焼きから鰻弁当まで、お土産も各種あり、商売熱心さが伝わってくる。鰻は事前に蒸し上げてあり、それを焼くため提供スピードは速い。白焼きは、焼き上げたものが素早く炭火の入ったコンロで提供される程である。

それに対しF店は、全て小上がりの6人掛けであり、2人客でもそこを専有させ、満席時には当然ウエイティングとなる。オーダー後に蒸し上げて焼きに入るため、提供時間は遅く、さらに回転は悪くなる。しかも、営業時間内でも売り切れ次第、閉店となる。土産は骨を揚げた物以外、一切ない。店主の職人気質が商売に優先されているのだ。

どちらも商売のやり方ではあるが、どちらが老舗となる可能性が高いかと言えば、 F店で異論の無いところだろう。幸いF店には、髪を染めてはいるが、若い後継者が手伝っている。職人気質が伝承できるかどうかは不明だが、20年、30年後のK店とF店がどうなっているかは興味深い。

  • フードビジネスコンサルタント(亜細亜大学講師) 清水 均
Bistro Mateに関するお問い合わせはこちら

お電話でのお問い合わせ 0120-346-401 受付時間 9時~17時(土・日・祝日は除く)

飲食業界お役立ち情報